『NIPPON・CHA! CHA! CHA!』
観劇レポート
日本大学芸術学部演劇学科2年
星野李奈
 まず、野外劇場という、とても開放的な空間に惹かれた。さらに場所が池袋の駅近ということもあり、会場を一歩進めばもう街の喧騒が目の前にあるところで演劇をする、観るという異物感が好きだった。演劇を観るときに自分はライブ感に重点を置くのだが、野外劇の2度と繰り返されることのない音や空気をダイレクトに感じられるところがとてもワクワクしたし、気持ちがよかった。
 話の内容がオリンピックについてであり、今年がオリンピック開催予定の年であったから、オリンピックが終わったという状況下で上演される予定だったのだろうと思うのだが、今年はコロナウイルスの影響でオリンピックは延期になってしまい、演劇も簡単に上演したり観ることができなくなってしまった状況で、このような舞台を観ることができて、何気ない一挙一動にとても感動した。生の舞台をみるのが実に半年以上ぶりだったからか、オープニングで人が出てきただけで涙がでてしまった。オリンピック後だったらまた別の感覚を覚えたのかもしれないが、オリンピックが上演できなかった今年だったからこそこの物語が心に響いたし、さらに街の喧騒も相まって1964年(のような年)を通して2020年を感じた気がした。 内容についてだが、登場人物、音楽や舞台美術の明暗が物語の陰陽を強く表してるような気がして、観ていて苦しくなる箇所がいくつもあった。特にカズオくんを応援して歌を歌いまくるシーンが明るすぎて一番辛く感じた。
 また、物語の中でも何回か言っていたが、時間にとらわれないイメージを持たせていたところが好きだった。話の舞台の時代設定はなんとなくあったが、その時代を通して今を考えさせられるような表現がいくつもあって、今の日本と過去の日本が本質的には変わらない部分が多いなあと思いながら観ていた。
 特に心に残っているのは、カズオくんとフクダさんが話すシーンで、カズオくんが足の痛みに耐えて周りからの応援に応えようとして放つ「僕がニッポンだ」というセリフは、カズオくんの鬼気迫る表情と共に心に突き刺さった。
 また、カズオくんの周りからの重圧に耐えるシーンが物語の山場で、この先の展開がなんとなく読めるな、次はこうなるんだろうと思っていた矢先に絶妙なタイミングで、実は全部撮影だったという意表を突かれる展開になり、びっくりして口がぽかーんとなってしまったが、それがきっかけでより物語に引き込まれてしまった。夢と現実が交差する不思議な空間の中にぐさりと心を突き刺すような演出、物語がとても興味深く、心に残るお話だった。