『真夏の夜の夢』観劇レポート
お茶の水女子大学3年
小磯捺未
 シルヴィウ・プルカレーテ演出ということで「リチャード三世」のようなじっとりと暗い世界観なのだろうかと予想していたが、全体を通してカラッとした明るさがあり、夢のように幻想的な舞台だった。心に残った演出について書こうと思う。
 舞台の使い方としては、平面的で壁画のような場面が何度かあり、特に登場人物たちが現れたり回収されたりする際の静止した平行移動の演出(冒頭の靴だけが歩いていく印象的なシーンから作品全体に一貫して現れる、リノリウムごとスライドしていくところ)は、絵本をめくる時のようで、寓話的な世界観の構築にとても効果的だったように思う。ただ、面白い演出ではあるが、役者が重心を崩さないように気を張っているのがあまりにも見えたので、その点は少し残念ではあった。
 一方で、長いテーブルのような台に乗ってそぼろ、ときたまご、デミ、ライが上手から現れるシーンは、役者のぴんと張った美しい身体がよく見えてとても良かった。この場面に限らず作品全体を通して、役者の体がダンサーのように強くて、特に鈴木杏さんがデミを追いかけてバレエのグランジュテのように飛んでいくところは、台詞だけで伝わりきらない強烈な一途さを感じさせ、「恋は盲目」という感じは行きたい方向に全力で進めるフィジカルがあるとより伝わるのだな、と感じた。
 平面的な演出としてはもう一つ、白い壁がスライドしてメフィストとパックが入れ替わり立ち替わり現れる場面。壁をするすると行き来する今井朋彦さんの身のこなしがいかにも狂言回しという感じで(サイドの二階席から観てもほとんど完璧だった)、メフィストだけが絵本の外側にいるような印象を受けた。
 妖精たちの衣装も印象に残った。森の妖精たちの世界、というと、華やかで煌びやかな世界を思い描いてしまうが、劇中の妖精たちが身にまとっているのはたっぷりと嵩んだビニールである。ビニールは舞台上にあると照明をキラキラと反射して美しいが、同時に人工的で中身のない感じを想起させ、それで満足そうに着飾っている妖精たちを見ると、少し物哀しいというか、ちょっと哀れで、目を背けたいような気持ちになった。森に捨てられたゴミ袋のような意味もあるのだろうか。山火事のシーンでは赤い照明のなかでビニールをわしゃわしゃと振り回して燃え盛る炎を演出していたが、そのチープさもよかった。
 映像の使い方に関しては、少し雑なのかなと感じる部分もあったが(大きくなったり小さくなったりする場面)、それでも大きいものが突然現れるというだけで見ているとテンションが上がるものだな、と思った。
 ラスト、メフィストが下手奥に向かって歩いていく影だけがぼんやりと見える状態からパッとパーティの場面に切り替わり、その明るさのまま舞台が終わっていくので、本当に夢を見ていたような感覚が終演後もずっと残っている。全体を通して、妙にはっきりとした夢のような舞台だった。