『NIPPON・CHA! CHA! CHA!』
観劇レポート
日本大学芸術学部演劇学科2年
岡美佑
 東京芸術祭2020『NIPPON・CHA! CHA! CHA!』を鑑賞し、初めて野外劇に触れる機会となった。現在の自粛せざるを得ない状況だからこそ、野外という新鮮な空気が常に流れ続ける環境で、パワフルな演技を間近で鑑賞する事が出来、その開放感の心地良さに、初めての野外劇がこのタイミングで寧ろ良かったのではないかと感じた。
  「GLOBAL RING」と刻まれた池袋西口公園上空の円環が、プロセニアムアーチのように池袋の景観を遮断し、舞台と隣接した街並みの騒々しさを感じる事なく観劇できたことに感銘を覚えた。GLOBAL RINGに合わせるように円形の舞台と、それを囲むように配置された客席が面白く、センターライン・上手・下手などの概念が曖昧になりながら鑑賞した記憶がある。覗き見をしているかのようなリアリティが生まれ、様々な角度から登場する人物と展開する物語に目を回した。客席から見た舞台セットは非常に小さく見え、お人形の家のようなハリボテの印象を受けた。しかし、そこから人々が続々と現れ、舞台全体から生命を感じ下町の空気が漂う。遠近感の為に小さく見えただけかと思ったが、靴工場が廃れる寸前である活気のなさや、下町全体の発展途上の様子を表しているのではないかと感じた。舞台が進むにつれ賑わいを見せ、景気と共に立ち上がったビル群は、GLOBAL RINGに届くほどの圧倒的な高さを誇り、それまでの舞台セットと対比するように景気の移り変わりを体感させた。また、平面図に起こせば日の丸のように見られる本舞台の上で、何度も登場人物が土下座をする様子が面白可笑しかった。
 『NIPPON・CHA! CHA! CHA!』というタイトルや今回のポスターデザインからお祭りのような活気に満ちた印象を受けた。しかし、それは常に表面上のものであり、期待を全面に押し付けられた者の孤独や人間性に目を向ける事は無かった。「期待」という言葉から恐ろしさを感じる瞬間でもあった。「下町の心温まる躍進物語」からズレが生じ始め、主人公への神格化と「一人の人間」としての想いの齟齬により、前向きなはずの応援歌がさらに胸を苦しくさせた。そこに悪意は無く、誰を責めることも出来ない事に面白さを感じた。日本の発展の歴史とその犠牲を凝縮したような、一貫してパワフルな舞台に活力を貰える機会であった。