『NIPPON・CHA! CHA! CHA!』
観劇レポート
日本大学芸術学部演劇学科2年
田邊千花子
 東京芸術祭2020の野外劇『NIPPON・CHA! CHA! CHA!』を鑑賞した。私はこの作品を見て、応援が持つ力について考えさせられた。相手にプラスのパワーを与え、背中を押すイメージがある応援は、果たしてプラスの力だけに働くのだろうかと。
 主人公のカズオは、自分の得意な走ることで周囲の人が喜び、応援してくれることにカズオ自身も喜びを感じていたと思う。しかし、それは怪我をしてしまった時に大きく変わったと思う。みんなが一生懸命応援し、カズオに対して大きな期待を持っていることが大きなプレッシャーになり、期待に応えられない現実に恐怖を感じていたのではないかと思った。親を亡くし、行き場を無くした自分を、走ることが得意だったから店に置いてくれることになったため、カズオは相当な焦りがあったのではないか考える。
 その時、同時に実際にアスリートとして活躍している人たちのことを想像した。私自身はいつも応援する側で、試合前や試合後にアスリート本人が、応援が力になると言っているのを何度も聞いたことがあり、そのことには間違いないと思うが、それ以上に私たちには分からない身体の状態やプレッシャーと戦っているのではないかと、カズオを通して急に身近に感じ、苦しくなった。だからといって応援をしないという訳ではないが、それも踏まえて、大きな舞台で戦うアスリートの成功を祈りたいと思った。もしも今年の夏にオリンピックが行われていたら、この作品の中の人々のように日本中が盛り上がっていただろう。
 また、登場人物の表情の豊かさや声の大きさから、応援の力強いパワーが客席まで伝わってきた。私自身も何かに挑戦する時に周囲の人から応援されると頑張ろうという気持ちになり、応援してくれる誰かがいると思うと心の支えになり、力をもらったことがある。このように応援はプレッシャーを与えるという面がありつつも、人を勇気づける力があると思った。
 そして私は今回初めて野外演劇を見た。今まで私の中で「劇場」というものは室内の空間しかないと思っていた。しかし、野外は周りを見渡せば見慣れたビルが並び、様々な人々が歩いているいつも通りの街であるのに、そこに舞台が置かれ、場所が区切られ、観客が入り、役を演じる者がいればそこは「劇場」になるのだと感じた。自分自身は劇場の中にいたため、逆に周りからはどう見えているのか、劇場の中と外では感じる空気が違うのか気になった。野外という初めての環境で、久しぶりに芝居を観たということもあり、とても楽しかった。