『NIPPON・CHA! CHA! CHA!』
観劇レポート
日本大学芸術学部演劇学科2年
脇谷有香
 『NIPPON・CHA! CHA! CHA! 』は小さな靴工場を救うため、日本中の期待を背負いマラソンでオリンピックを目指す少年の孤独や葛藤を描いた作品です。妙月小春の代表作としてこれまでも何度か再演を繰り返してきました。
 私はこの作品を通して、向き合わなければいけない現実と向き合いたくない現実、ということについて考えさせられました。辛い現実をどうにか立て直したい、元気を与えてほしいという国民の応援は言ってしまえば「向き合いたくない現実」に対する最後の頼み綱なのかもしれません。一方で、自分の事実を隠し最後は孤独に自分一人で戦わなくてはいけない少年の「向き合わなければいけない現実」が表されていました。これはなにも日本の敗戦直後のオリンピックに限った昔話ではありません。今年開催されるはずだったオリンピック、さらにはこのコロナ禍の状況、立て続けに起こった芸能人の自殺の報道、すべてに通ずる部分があるのではないかと思います。
 また、私自身野外劇は初めての体験でした。観劇場という現実からポツンと隔離された空間での演劇も好きですが、こういった雰囲気の中での演劇はまた一味違いました。電車の音が聞こえたり、向こうでタクシーを乗り降りしている人が見えたり。目の前で起こっていることは決して作り話や物語の中にとどまったものではなく、この東京の中心で、まさに今人々の営みの中で起こっていることなのだと錯覚するような不思議な感覚を味わいました。
 「大きな“からっぽ”の真ん中の、小さな喧騒の物語」。まさにこの作品とマッチしたロケーションだったのではないでしょうか。広い空間で、生演奏や歌を交えてのテンポ感はミュージカルとはまた違った、これまた新しい感覚でした。役者の言葉や動き一つ一つに乗せられたエネルギーはどこから湧き出るのでしょうか。あんなに華やかなのに孤独な作品は見たことがありません。これは昔話ではなく、私たちの今の話です。時代が移り変わっても、ファッションや音楽の流行が繰り返されるように私たちの営みもまたその繰り返しなのだと思います。