『NIPPON・CHA! CHA! CHA!』
観劇レポート
日本大学芸術学部演劇学科2年
渡辺康太
 本稿では、池袋西口公園のグローバルリングシアターにて10月18日から25日まで上演された野外劇『NIPPON・CHA! CHA! CHA!』を鑑賞した感想を述べる。
 上演時間は約90分で、私が観劇した20日の上演では、天候には恵まれたものの、少々肌寒い陽気であった。
 この作品について、第一に私が感じたものは、祝祭性である。
 作中では、倒産寸前の靴工場である天下一靴店の社長とその娘が、そこに偶然訪れたカズオという青年をマラソンランナーにし、自社の広告塔に仕立てようと、周囲の人と共に奮闘する様子が描かれていた。町を挙げてカズオという青年を応援する様は、後半につれて加速していき、最終的にカズオが精神・肉体の両面で疲弊してもなお、声援は途切れることなく続いていく。その様は、まるでカズオという存在を依り代にした神事のようであった。
 またこの作品においては、公園の中央に仮設された舞台と、それを半円形に取り囲む客席、更にそれを取り囲むグローバルリング(公園にある円形の躯体)、そして池袋の町並みという、まるで同心円が何層にも重なったような劇場空間が構成されていた。劇中に登場する歌の数々がこの多重の円に響くさまは、まさにキーワードの一つでもある「空っぽ」というワードやそれに込められた空虚さを表現していたようであった。 本編における一種の悲劇的結末を迎えた後の、底抜けに明るいようなカーテンコールと、すべてが終わった後に訪れる静寂もまた、祭りの後には何も残らないという空虚さを増長させていたように感じられた。
 なお、この作品は、2020年9月にも鳥取市鹿野町の廃校を利用した劇場である「鳥の劇場」で野外での上演が行われている。東京公演とは違い、廃校の校舎を背景にし、かつ舞台照明を用いない日中の上演だったそうだ。
 このように、野外で上演される作品という点においては、上演地によって周囲の環境が大きく変化する。つまり、鳥取と東京という全く違うロケーションで、作品そのものの特性がどこまで変化するのだろうか、という点が大変興味深く感じられた。
 制作的な面で、地方でクリエイションを行って、東京にその作品を持ち込むという手法は今後も行われていくだろう手法だと思われる。池袋西口公園のグローバルリングという唯一無二のロケーションを生かした、野外演劇という、ある意味演劇そのものの原点回帰でもあるジャンルが、今後どのように成長するのか。そういった点についても今後興味・関心をもって積極的に観劇していきたいと感じた。