『真夏の夜の夢』観劇レポート
日本大学芸術学部演劇学科1年
伊藤真瞳
 シェイクスピアの作品の中で真夏の夜の夢が一番好きなので、今回の公演を本当に楽しみにしていました。鑑賞してみて、“真夏の夜の夢のようで真夏の夜の夢ではない”という印象を持ちました。私がよく知っていた真夏の夜の夢からだんだん遠ざかって最後に戻ってくる印象です。この物語において一番のキーパーソンはメフィストなのではないのかと考えます。赤ん坊が妖精の森に現れた時にはメフィストの計画はすでに動き始めており、そのことに登場人物も観客も気づくことができません。物語の中でメフィストは妖精の森に災いをもたらす悪魔のように描かれていますが、私にはメフィストは可哀想な存在のように見えました。メフィストは人間が口に出すのを躊躇って飲み込んだ言葉に吸い寄せられ、その言葉に秘められた願いを叶える妖精です。ただ、人間が口に出すのを躊躇う言葉ですから、中には暗くて汚い言葉も多くあります。そんな言葉に囲まれているうちにメフィストは卑屈になっていき、このような悪魔となってしまったのではないかと感じました。
 私が考える野田秀樹さんの真夏の夜の夢は、男女四人が体験した不思議な夢の話ではなく“人間が飲み込んだ口に出せない言葉に染まってしまった、メフィストという可愛そうな悪魔が見せた夢の話”です。メフィストという原作には登場しないキャラクターが物語をかき乱していく様がとても魅力的でした。